www.orchidclub.net LB

<< 2017年8月号 安田恵美さんより、おてがみが届きました | main | 2017年12月号 正木恵子さんより、おてがみが届きました >>

2017年10月号 加藤わこさんより、おてがみが届きました

蘭の会のみなさま

『Sさんからの手紙の事』

初めまして、京都市に住む加藤わこといいます。蘭の会さんへ手紙を書いてみませんかと、古い友人から声をかけてもらい、喜んで書かせてもらっています。

わたしは、9年前にもらった1通の手紙を、今でもときどき読み返します。お守りのような手紙です。「リビング京都」というフリーペーパーに、写真付きのミニコラムを書いていた時、編集部に届きました。

「突然のお便り失礼いたします。先日あなたの吉野川の写真を見て、あまりにも懐かしく、ペンを取りました。おいやでなければお読み下さい」。

端正な文字が流れるようにつづきます。

「昨日のことや朝食のおかずのこと等忘れてしまうことがありますのに、何故、60年も前のことが、昨日のことのように鮮明に思い出せるのでしょうか。わたしは77歳の女性です。父は奈良県吉野郡の出身です。子どもの頃の夏休み、父の実家に遊びに行くのが楽しみでした。おばあちゃんは、川で遊ぶ孫たちのために草鞋を作ってくれました。都会の子は、川を渡るのに、ぬるゝ水苔がついた石ですべってしまうのです。筏(いかだ)にも乗せてもらいました。上から鮎が群れをなしてキラリゝと光って泳ぐのが見えました。そこは、『天皇の淵』と、言われていました」・・・

手紙が語る故郷の川の、鮮やかなこと。清流にきらめく鮎の群れ、子どもの声が響く谷。「天皇の淵」とはどんなところだろうか。想像するだけで吸い込まれそうになります。

「思い出してもどうにもならない、帰らぬ昔のことですが、父も母も祖母も元気で居た頃に、戻れるものなら戻りたい想いで、心の中はいっぱいです。」

何度読んでも、このくだりで喉の奥がクッとなります。9年経った今は一層沁みます。

Sさんにお礼の手紙を書くと、すぐに2通めの手紙が届きました。お礼のお礼がていねいに綴られ、次のように締められていました。

「…あなたのおかげで、胸がいたくなるような遠い日の思い出にひたることが出来ました。ありがとう。お元気でおすごしください。拝」


手紙の中に、詩を見るときがありますよね。思いかけず。
インターネットにもたくさんの言葉が溢れています。それらは誰に宛てるともなく漂う手紙の束のように思います。
何度も開く手紙のように、何度も覗くページがあります。蘭の会に寄せられた手紙のページも、そんな場所になりそうです。そしてそこにわたしも加えてもらえることが、本当に嬉しいです。
いつかお会いできることを願って、書き置きます。


■加藤わこ(かとうわこ)さんって、どんな人?
wako

奈良県吉野郡出身、京都在住。コンピュータメーカー勤務後、フリーランスでいろいろな仕事や活動をしています。現在は講師業、企画請負、ライター業、三度笠おむすび塾主宰、まち歩きガイド等をやっています。好きな言葉は「カオス」です。ブログ三度笠書簡
プロフィールの写真は気仙沼市の復活した名店「喫茶マンボ」で今年(2017)3月に撮ってもらったものです。

フリーランス | permalink | - | -
■Contents
top
poetry
members link
saruret