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2017年8月号 安田恵美さんより、おてがみが届きました

こんにちは。

はじめてお手紙を書きます。

私は、犯罪をしてしまった人、刑務所に入った経験がある人が、その後、社会の中でひとりの人間として生活していくためにはどのような施策が良いのか、そしてなぜそのような施策が必要なのか、という領域の「専門家」(といってもまだまだヒヨコですが…)です。日本の制度や議論の中で研究していても、なかなか良いアイディアが思い浮かばないので、私は、大好きなフランスの議論や制度を参考にしながら研究をしています。このお手紙も、実はパリのホテルの一室で書いています。フランスの法制度を学ぶのはもちろん、受刑者や出所者に寄り添いながらかれらの社会復帰を支える人々にインタビューしているのです。彼らの活動からヒントを得て、大阪で「シャバの空気をおいしくする会」という活動を色々な人とつながりながら行ったりもしています。

私の活動や研究テーマは賛否両論あるもの、だと思います。肯定的にみていただくのも、批判的にみてただくのも、それはあなたの自由です。ただ、批判的な意見を持たれるとしても、刑務所や受刑者の状況や法制度について知ってほしいのです。知ったうえで、批判をしてください。

まず、私が今このような研究や活動するようになったきっかけとなった出来事をお話ししたいと思います。10年くらい前、私は、東北にあるとある小さな地方大学で、犯罪と刑罰に関する刑法という法律を学ぶゼミに所属していました。ある日、そのゼミの活動の一環として、刑務所を見学する機会がありました。私の頭の中には、なんとなく、「犯罪者・受刑者」にたいして、「みるからに悪そうな顔つきの(もしかしたら、頬に傷があるかもしれない)、身体が大きい」イメージがありました。しかし、実際に行ってみたら、刑務所内の工場には、白髪の、小さいからだを寒さでより丸めてヨロヨロと作業にいそしむ高齢者が多かったんです。彼は一日8時間、東北の雪が積もるところにある施設なのに暖房もなく、冷え切った工場でひたすら作業にいそしんでいました。

その光景は私にとって、とても衝撃的でした。

彼らはなぜ、刑務所でこんな暮らしをしているのだろう?私は、刑務官に尋ねました。こたえはこうです。「彼らは、軽い窃盗を何度も何度も繰り返しているんですよ。貧しくて食べるものが買えないんです。食べるものを盗んだり、無銭飲食したり、あるいは、刑務所なら3食食べれますからね。」

私が抱いていた「受刑者=悪人像」は見事に消え去りました。人・お店のものを盗ることや無銭飲食はもちろん犯罪です。彼らが犯罪をしたのは事実です。でも、実際に高齢受刑者を目の当たりにして彼らを2年、3年と刑務所に入れることは行き過ぎているように思えました。今でもそう思います。それから10年間高齢犯罪者の実態と彼らに対する刑罰や刑務所内での生活について研究を重ねてきました。彼らはなぜ犯罪を繰り返すのか?簡単に言ってしまえば、刑務所出所後に行く場所がない、頼る人がいないから、です。でも、もっと奥底には、「自分を大切にすることができなくなっている」という問題があるのだと思います。ひどい生活困窮状態に陥るまでのながれの中で、色々な人や機関に頼ってもうまくいかない、という経験をとおして、「人から大切にされない→自分は大切にされる価値のない人間なのだ→どうなっても良い」という思考のスパイラルにおちいってしまうのではないでしょうか。

様々な法律は、受刑者であろうと、犯罪をしたことのない人だろうと、同様に人権や尊厳が尊重されるとしています。法律のセカイではそのようになっていても、一般的にはこのような考え方は、少数派のようです。むしろ、一般の人々にこのようなお話しをすると、「偏っている」と言われることもしばしばあります。私は、むしろその逆で、受刑者も出所者も一人の人として等しくまわりから大切に扱われなくてはならない、と言っているつもりなのですが…。

「シャバの空気をおいしくする会」の活動を始めたのは2016年春のことです。きっかけは色々ありますが、「偏っている」という誤解を解きたいな、と思ったのもそのひとつです。2016年の活動としては、刑務所と社会を行ったり来たりしている人が置かれている状況について情報を提供し、それについて考えたり、意見を交換するワークショップの開催、出所する人にたいしては、「シャバのあるき方」というペーパーの作成、といったところです。シャバの空気をおいしくしていくためには、社会にいる人たちと刑務所出所者の両方に力をつけてもらうことが必要です。社会にいる人たちには、刑務所を出てきた人の存在を否定しない力を、刑務所から出所した人には社会に居場所を作っていく力を。このように書くと、住む場所や社会保障の話になりそうですが、必ずしもそうとは限りません。

さて、話はフランスに戻ります。今回も、受刑者や刑務所出所者によりそう活動をしている様々な人々にお話しを聞くためにきました。たくさんの人に出会いましたが、特に印象的だったのは、刑務所内で「表現活動」を提供している人々です。フランスでは、刑務所の中に一般の人・団体が入って受刑者によりそうことができます。刑務所の中で絵をかいたり、立体を作ったり、詩を書いたり…。自分の気持ちを表現する活動は彼らにとってとても貴重な時間となります。自分と向き合う時間、コミュニケーションの時間…人それぞれです。

どれも社会で生活するための準備運動として重要なものです。残念ながら日本の刑務所では、「教育」的な活動が多く、そのような自由な表現活動は数少ないのです。刑務所出所者も、若ければすぐに就労することが「良い」とされ、高齢であれば施設でおとなしくしているのが「良い」とされている。いずれにしても、彼は「品行方正」であることが社会から求められているのです。そのために彼らは刑務所出所後、シャバとの熾烈な「闘い」に身を投じなくてはならず、自分と向き合う時間や余裕はないのです。「闘い」に疲れ、「犯罪のスパイラル」に陥っていく人も少なくありません。

「表現」する時間は、コミュニケーションをとるためのツールであり、自分と向き合う時間であり、自分を解放する時間にもなります。いずれにしても、彼らにとってとっても重要です。社会と闘っている受刑者・出所者にたいする「表現」の場が日本でも広がっていくことを切に願っています。そして、このお手紙を読まれたみなさんのうち一人でも多くの方に、「表現」という形での彼らの社会参加に関わっていただきたいのです。


■安田恵美さんって、どんな人?

yasu
2013年3月に大阪市立大学大学院法学研究科後期博士課程を修了。2015年4月より國學院大學法学部に専任講師として着任し、現在に至る。大学では、主に刑事政策と犯罪学の講義を担当している。専門は、高齢犯罪者の権利保障と社会復帰に向けた施策に関する日仏比較。大阪では「シャバの空気をおいしくする会」の一員として、市民向けワークショップの開催や刑務所出所者向けのリーフレットの作成等の活動を行っている。

國學院大學法学部専任講師 | permalink | - | -
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