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2015年1月号 今滝憲雄さんより、おてがみが届きました

 はじめまして。大阪の堺に住む、今滝憲雄と申します。
兵庫県のある女子大学の図書館で今、この手紙を書きはじめています。
両隣には自習中の学生さんが、静かにペンを走らせて勉強しています。
 僕は今、大学の非常勤講師をしています。担当するのは、教員養成の授業です.一回生を対象とした教育総論や、人権教育関連の講義を受け持っています。といっても、週に三日のみの出講で、その他、週末には研究会や読書会も入りますが、とにかく自由な身分で日々、過ごしています。
 僕がこのような手紙を記すきっかけについて、少し触れさせてもらいます.昨年六月、受講生対象の街歩きを企画するため、大阪西成の釜ヶ崎をたずねました.そこで偶然、上田假奈代さんたち、アートNPOココルームのスタッフさんたちと出会った事がきっかけです。その後、ココルーム主催の釜ヶ崎芸術大学に出席させてもらいながら、上田さんが毎月自主運営で開いている「詩の学校」にも顔出しするようになりました。そんな中、お声掛けいただいた事で、この手紙を書かせてもらう事になりました。
 ちなみに上田さんと出会うまで、詩とは無縁の世界に生きてきました(そうは見えませんが、いわゆる体育会系出身で中高大と野球部に所属し、十年前まで地域の草野球も続けました)。ですから、「詩の学校」で共同作業により形づくられる詩に、毎回大きな喜びと充実感を覚えています.そしてその事が調子乗りの自身の変な自信にもなり、この間、個人的にいくつか詩を作る機会がありました。
 例えば、昨年十一月、淀の京都競馬場で開催されたマイルチャンピオンシップ。お気に入りの競走馬を見に行った際につくった長編詩(ちなみにその馬は十八頭の出走馬中、十八着でその悲哀を綴りました)。また昨年十二月、母の一周忌に書き記した詩(今も自宅の冷蔵庫にその詩をはりつけています)。またある女性アクセサリー作家の創作活動を見せてもらった後、その様子を綴った詩(彼女には思いも寄らぬプレゼントだったようで、超びっくりされてしまいました)。  これまで想像も出来なかった自分の生活世界、ライフステージに詩という素敵な芸術が、ある位置を占めるようになりました。そんな僕にとって、忘れられない出来事が、この前の「詩の授業」でありました。
 それは上田假奈代さんとペアになって、ある思い出の地名について聴き取り合い、それを形にした詩の創作においてです。もう十五年程前の事なのですが、ハンセン病療養所がある屋我地島を訪れるに際して、沖縄出身で僕の授業を受けていた、ある女子学生さん(僕を励ましてくれていた)に会いに行った話を、上田さんに聴いてもらった時の事です。実はその行為に対して僕は、ずっとある種のよこしま感、大げさですが、罪の意識のようなものを抱いてきました。が、出来上がった上田さんによる「聴き取り」詩の朗読を側で聞かせてもらい、とても心が晴れました。つまり、自分の罪意識を無化してもらえたように思えたのです(また静かな島の月夜の情景も、心に想起されました)。詳細は論じられませんが、とにかく詩には、その人が抱えて来た負の人生体験を浄化して、美的な出来事へと転換してくれる力があるんだなあとその時、感じたのです.
 他者の語り(表現)を誠実に聴き、それを受容して再構成しながら、自己表現する「再現」のプロセスに、自他の個性が普遍的な価値の実現として自ずと輝き出る事、そんな不思議な力が詩作には秘められているんだ、と気づかされました。
 芸術全般の基礎的な事柄かも知れませんが、創作の場においてこそ、日常の中に埋もれかけている豊かな実在(価値)が浮かび上がるという事実、そんな詩作との出遇いで、僕の世界は広がりと深まりを見せています。そういった素敵な体験を、より多くの人々に導いていただけますよう、みなさまには心より希望し願っています。


■今滝憲雄さんって、どんな人?
takitaki
1969年生。大阪府立大学大学院修了後、現在まで大学非常勤講師
直らない面倒くさがりの性格につきあい続ける日々を過ごしています。


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