www.orchidclub.net LB

<< 2014年10月号 猫まみれさんより、おてがみが届きました | main | 2015年1月号 今滝憲雄さんより、おてがみが届きました >>

2014年11月号 池田万由未さんより、おてがみが届きました

「手紙の手紙」

はじめまして。池田万由未と申します。特に何者と言えるものでもないのですが、人が好きで、こんなふうに手紙を書くのがすごく好きです。今日はちょっと「手紙の手紙」を書いてみようと思います。

さて、私の個人的な事情なのですが、最近引っ越しをしました。
まぁ単身の住むような小さなアパートだから特にお隣に挨拶することもなく、引越しの片付けなどをしつつ、新生活を楽しんでいたのですが、郵便受けをみるのを忘れており、引っ越して2日目くらいにみてみると、そこにはピザ屋のちらしとコピー用紙を二つ折りにした手紙が1通、入っていました。

「 私は一階の住人のFと申す者です。普通なら二階に上がって池田様にご挨拶をしたいと思っておりますが、現在86歳になりますと、足が弱って支えがないと歩けなくなりました。それで階段は上れませんので失礼致します。
用件 ゴミ出しの日・場所の説明(省略)
その他、質問したいことがあります時は郵便受けの101の中へ入れて下さい。大変ご面倒をおかけしますが、お許しの程を。 」

挨拶しないといけないのは私の方なのに!という申し訳ない気持ちとこんな親切にお手紙をくれるまだ見ぬ86歳へのやわらかく愛おしい気持ちが湧いてきました。
仕事の都合などで翌々日くらいになったのですが、栗饅頭を持って挨拶に伺うと、そこにはまさに86歳の可愛らしくでもどこか品のあるご婦人が顔を出しました。
手紙のお礼と挨拶が遅れた謝罪などの挨拶をまぁそこそこにし、お別れをしたのですが、その翌々日に、また郵便受けにコピー用紙を二つ折りにした手紙が入っていました。

「 先日は美味しい栗まんじゅうを頂きありがとうございました。私はヘルパーさんが週2回来て部屋を掃除してくれます。それで、掃除がすんでヘルパーさんとコーヒーを飲みながら栗まんじゅうを頂きました。久しぶりでしたので、美味しく頂きました。ありがとうございました。 」

まるで恋人から手紙が来たような嬉しさで、すぐにお返事を書きました。奥様に似合うような和柄の便箋に、私もヘルパーであることといつでも困ったことがあれば呼んでほしいことと連絡先を書いて(文面は忘れてしまいました。でも手紙の良さって自分が書いた内容は読めないことでもあると思うのです。)二つ折りにして101の郵便受けに、ストン。

それから少し経って、郵便受けに今度はコピー用紙を二つ折りにした手紙とハート柄のタオルの入ったビニール袋が入っていました。

「 お仕事でヘルパーさんをしていらっしゃるそうですね。若い時には考えてもみなかった事が、年をとると出来なくなる事を手助けして頂くヘルパーさんに感謝しております。(個人的なことが書いてあったので省略)
生協にタオルを注文しましたら、4枚も入ってましたので、1枚お使い下さい。お若い人には向いているハートもようですが、年寄りにはちょっと気はずかしいと思います。 」

なんだかもう1日ずっとにこにこしてしまいそうな嬉しさで、色んな人に自慢をしてしまいました。何かお返しを、と思ったのですが、そうするとまた気を使わせてしまうような気もして、御礼のお手紙だけにしました。やっぱり和柄の便箋を二つ折りにして。

このやりとりで、今のところは止まっていますし、なかなか会う機会もないものですから、朝の窓を開ける音くらいしか下の86歳の住人の存在を確認することはありません。でも、いつか重いものが持てなくて困った、くらいの用事で、電話がはいったりしたら嬉しいなと密かに思っています。
こんな誰かとのやりとりがあるから生きていけるとしみじみと思います。

言葉は、言葉では、“本当”は伝わらないと思っています。どうやってもどこかに歪みが生じると思います。それでも、そこに“本当”がなかったとしても、言葉を通して自分の感覚に置き換えられ“感じ”がわかったとき、どうしようもない嬉しさに満たされます。たぶんそれは言葉でなくてもいいのですが、なにかを介して伝えられたものが「なんだかわかる」とはっとする瞬間や、または染み込むような切なさが“感じ”なのだと思います。
私にとって言葉というものが大切になってきたのは、3,4年くらい前からです。“感じ”を受け取ることはできても、伝えることはまだとても難しいです。言葉の初心者の私としては、“感じ”を伝えることができる人にとても、とても憧れます。
しかしまぁ、本当のところ“感じ”を伝えられたかどうかなんて、もしかしたら誰にもわからないことなのかもしれません。

そんなどうしようもない世界で、私は86歳になることが、今はあまり怖くはありません。


■池田万由未さんって、どんな人?
ikeda
1985年福岡生まれ。大学で美術を学んだあと社会を知るため、建築会社に就職。まさかのweb系から介護系に部署異動。認知症のじじばばにきれいもきたないもまるっと見せてもらって、禿げ頭にキスしたいと思ったことから、福祉にはまる。美術と福祉の共通項を見出し、繋ぐ術を探るべく、障がい福祉に転職を決意。色々みてまわって思ってもみなかった重度心身障がい児・者と関わるNPO法人ニコちゃんの会に就職。衝撃の毎日であっというまに1年半。


福祉人 | permalink | - | -
■Contents
top
poetry
members link
saruret