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2014年7月号 鳥居(とりい)さんより、おてがみが届きました

はじめまして。

私の名前は 鳥居と 云います。

私は 小学校中退で ホームレスで 孤児。

とても とても 貧乏です。

だけど 

小説や 美術や 短歌を つくって

時々 賞をもらったり 新聞に載ったり しています。

ーーー

今は 孤児ですが

昔は 私にも 立派な 家族がいました。

私の一家は 代々 お医者さんか 学校の先生の仕事に 就きました。

みんな 国立の大学を 入学して 卒業しました。

そんな優秀な わが家にも 

みんなには 言えないことが ありました。

ーーー

あなたは

「虐待の連鎖」

という言葉 を 聞いたことが ありますか?

よんで字のごとく。

虐待が 連鎖していく ( 病気・呪い ) のことです。

ーーー

私の おじいさんも おばあさんも おかあさんも (おとうさんはいない)

それぞれ とても すばらしい 

尊敬する 立派な 人生を 歩んでこられました。

そんな 立派な人格を 以てしてでも

それでも 

虐待の連鎖 を 断ち切ることは

困難でした。

ーーー

とても かなしいことですが

おばあさん と おじいさんは、 おかあさんを 虐待して

おかあさんは、 私を 虐待しました。
 
ーーー

おかあさんは、トラウマに苦しみ

私が 小学生のときに 灰色になって 自殺してしまいました。

ーーー

私は 

「だいすきな おかあさんが 死んでしまったのは

おじいさんと おばあさんの せいだ。

あなたたちが 過去に 虐待なんか するから

おかあさんは 死んでしまったじゃないか。」と 言って

おじいさんと おばあさんの家には帰らず

孤児院で 暮らすことにしました。

ーーー

孤児院は 

今までの生活とは

すべてが ちがっていました。

ーーー

爪を剥がされたり

熱湯を掛けられたり

殴られたりすること は 日常茶飯事で

ついには

倉庫に監禁されて 学校にも 通えなくなりました。

ーーー

おばあさんは 孤児院に よく手紙を送ってくださいました。

「学校は楽しいですか? お友達はできましたか?」

ーーー

私の一家は 代々 みんな 国立の大学を 入学して 卒業し

お医者さんか 学校の先生の仕事に 就きました。

それなのに 私は 

大学どころか 小学校すら 通えなくなっていたのでした。



学校へ通えない間に

授業は どんどん 進み

ついには

乗り遅れた 最終のバスのように

まるで「もう手遅れだ」と 言わんばかりに

どんどん 年相応の学力から 私は 取り残されていきました。

ーーー

そうして

学力は 小学校の 途中のままなのに

私は 中学生の 年になりました。

ーーー

若いころに 教師をしていた おばあさんは よく手紙を送ってくださいました。

「学校は楽しいですか? お友達はできましたか?」

「そろそろ 中学校で〇〇を習う頃ですね。」

「〇〇は つまづき易いところですが、 あなたは昔から 賢い子でしから きっと大丈夫だと思います。」

「そろそろ 行きたい高校は 決まりましたか?」

ーーー

全身 痣だらけで

食事を貰えないために 痩せこけ

洋服もないから 雪の日でも 唯一持っている 半袖の体操服を着て

寒さで震え 蒼い顔をして 

爪のない血まみれの指で

私は 手紙を 読んでいました。
 


私は けっして おばあさんに 返事を 書くことは、ありませんでした。

ーーー

そのうち おじいさんは死に

次に おばあさんも 死んでしまいました。

遺産は ぜんぶ 他の親族が もっていきました。

ーーー

おばあさんが 亡くなる数年前に

1度だけ おばあさんに 会ったことがあります。



おばあさんは 私に会うなり 嬉しそうに言いました。

「元気でしたか。ところで 勉強の方は どうですか?」

私は なんとなく ずっと下を向いていました。

それを 不思議に思ったのか

「学校で〇〇の公式を習ったでしょう? 〇〇の時 〇〇は、どうなるんだったかな?」

「〇〇は知っているよね。習ったはずだね?」

次々と 次々と

おばあさんは 私に 勉強についての 質問をされました。



だけど 私は ずっと下を向いていて 

たった 1つも、答えることが出来ませんでした。

ーーー

おばあさんは 亡くなるとき

かつての教え子の中で一番 勉強ができなかった生徒の名前を 挙げながら

「あの出来の悪かった生徒よりは、うちの孫の方が まだ勉強ができるはずだ、まだマシなはずだ」 

と 繰り返していたそうです。



やがて 死期が近づき おばあさんは 意識が混濁しながら

    あの子よりマシあの子よりマシあの子よりマシ  あの子よりマシあの子よりマシあの子よりマシ
  あの子よりマシあの子よりマシあの子よりマシあの子よりマシ あの子よりマシあの子よりマシあの子よりマシ あの子よりマシ あの子よりマシあの子よりマシ
あの子よりマシあの子よりマシ  あの子よりマシあの子よりマシあの子よりマシあの子よりマシ
     あの子よりマシあの子よりマシ
あの子よりマシ あの子よりマシあの子よりマシあの子よりマシあの子よりマシあの子よりマシ
あの子よりマシあの子よりマシあの子よりマシ あの子よりマシ
    あの子よりマシ
あの子よりマシあの子よりマシあの子よりマシ      あの子よりマシあの子よりマシ
  あの子よりマシあの子よりマシ あの子よりマシあの子よりマシ   あの子よりマシあの子よりマシ
 あの子よりマシ あの子よりマシ あの子よりマシ あの子よりマシあの子よりマシ
あの子よりマシあの子よりマシ
 あの子よりマシあの子よりマシあの子よりマシ あの子よりマシあの子よりマシ 

繰り返し 繰り返し

口走っていた といいます。

ーーー

かつて名家と呼ばれた我が家は

何の教養もないまま育ってしまった孤児の私1人を遺して

崩れ落ちてしまいました。

この お話は

そんな哀れな家族の物語です。

お読みいただき ありがとうございました。










慰めに「勉強など」と人は言ふ その勉強がしたかつたのです


ーーー


■鳥居さんって、どんな人?
torii
【略歴】
作家(短歌・小説・美術)
小学校中退・孤児・ホームレス等を経験
いつも、セーラー服を着ている


【受賞歴】
現代歌人協会主催 全国短歌大会 佳作 (穂村弘選)
路上文学賞 大賞 (星野智幸選)
中城ふみ子賞 候補作



【セーラー服の理由】
いじめ・虐待など、何らかの事情で
義務教育を学びたくても学べず、教育の権利を奪われた人がいます。
社会への問題提議を込めて、表現活動としてセーラー服を着ています。


【活動】
・生きづら短歌会‥不登校・ひきこもり・ニートなどの生きづらさを抱えた人を対象にした短歌会を発足
・虹色短歌会‥セクシャルマイノリティ・セックスワーカー当事者を対象にした短歌会を発足

それぞれで、歌会等のイベントを開催している



【関連サイト】
ブログ http://toriitorii.exblog.jp/i2/
不登校新聞 http://www.futoko.org/news/page0201-3239.html
吉川宏志氏と鳥居 http://aosemi.blog.ocn.ne.jp/blog/2012/12/post_d82b.html
藪内亮輔氏・鳥居を語る http://www.youtube.com/watch?v=GXMsIjzHynY


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