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2016年8月号 天野妙子さんより、おてがみが届きました

 恋をした。16 才、はじめての恋。
学校へ行くと彼に会える!それだけの理由で通学していたのに、彼はあまり学校には来なかった。
その代わり沢山の手紙をもらった。
もう手元にないので、どれくらいの量なのか忘れてしまったけれど、多分小さな段ボール箱一つ位の分量にはなっていただろう。
 
 ところが、私には彼の手紙の意味がよく分からなかった。一年先輩だっただけなのに、私は全くのネンネで彼は早熟の文学青年だったのかもしれない。 手紙の内容は忘れてしまったけれど「ラブレター」には違いなかった。二年後に彼が卒業してしまったので疎遠になってしまったが、今でも覚えているフレーズがある。「詩人は待つ。何を?詩人を」

 もう年寄りになったのに、私はまだ彼の手紙に書いてあったこの言葉を時々つぶやいている。
もしかしたら、誰もが知っている有名な人の一文節なのかもしれない。でも今の私にとって、それが誰の言葉かを知る必要はない。教えてくれたのが恋人だったというだけで十分なのだけれど、彼は何故私にそれを告げたのだろう。

 「ゴドーを待ちながら」という戯曲があると知ったのは随分後のことだった。読んだこともないし、その劇を観たこともない。それなのに、いつのまにかそのタイトルに「詩人」を被せてしまった。
待つ。待つ。待つ。待ちながら座っている。
私は詩人ではない。じゃあ何を待っているのだろう。
「…は待つ。何を?…を」
「…」に何を入れればいいのだろう?
多分それは「我」なのだろう。
そう、私はずっと私を待っていたのだ。
私が生まれる。私が死ぬ。そして生まれる。やがて死ぬだろう。
 
 恋をした。68才、二度目の恋。
でも相手はいない。それなのに時めいている。
ただ生きているのが嬉しい。何の意味も何の理由もない。もうラブレターを書いてくれる人もなく、手紙を受け取ることもない。ちょっと寂しいから「蘭の会」に手紙を書いてみた。


■天野妙子さんって、どんな人?
amano
17才で家出、日本各地を放浪。
47才で再家出、世界各地を放浪。
60才で出家、台湾、韓国、日本各地を放浪中。

臨済宗天竜寺派雲水 | permalink | - | -
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