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2016年5月号 生田武志さんより、おてがみが届きました

蘭の会のみなさま

こんにちは。生田武志といいます。
ふだん、野宿者ネットワークという団体で大阪の釜ヶ崎などで野宿している人たちへの支援活動などをしています。野宿している人たちの現場を回って相談にのる「夜まわり」とか、テント村のある公園での「交流会」とか、電話での生活相談などです。なお、野宿者ネットワークはお金がない団体なので、人件費はゼロ、ぼくもそうですが、参加者はみんな無償で活動しています。
ぼくは大学を出たあと、日雇労働者をしながら活動していました。ここ数年は、日雇労働が少なくなったので肉体労働は辞めて、いろんなバイトをしながら活動しています。
 釜ヶ崎では、日雇労働者が失業して野宿になる、という問題がずっと続いていました。このため、釜ヶ崎は野宿者が日本で一番多い地域になり、病死、凍死などで路上死が年間何百人もある街になりました。
 けれども、1990年代後半から、フリーターで仕事がなくなり、野宿になる人たちが全国で現われ始めました。「不安定就労から野宿へ」という社会問題の主役が、かつての日雇労働者からフリーターなどの非正規労働者へと移っていったわけです。そうした人たちの相談を聞きながら、「日雇労働者がリハーサルし、フリーターが本番を迎えている」と感じるようになりました。
 2005年ぐらいに、若年労働や貧困問題をテーマにした雑誌を作ろう、という企画が生まれました。その結果、有限責任事業組合「フリーターズフリー」を4人で作り、雑誌「フリーターズフリー」を発行しました。こうして、自分たちで作った「組合」という企業で雑誌を創刊した結果として、『フリーターズフリー』では、組合員であるぼくたち自身が出資、企画、編集、執筆、テープ起こし、校正、会計、全てを行ないました。一人一人が数十万円の出資をし、編集や企画などの作業をします。メンバー4人は、それぞれ東京、埼玉、神奈川、大阪に住んでいました。何度も会って話をしましたが、ほとんどはMLとスカイプなどで事業を進めてきました。
 創刊号以来のフリーターズフリーの内容は、かなり充実したものだったと思います。特に、学者や評論家ではなく、当事者が声を上げる内容が、いろんな方から評価を受けました。池袋ジュンク堂店でトークセッションが開かれたり、NHKで取材されたりとかなり注目されました。フリーターズフリーは2号まで出した後、有限責任事業組合は解散し、「フリーターズフリー3号」を栗田隆子さん(働く女性の全国センター代表)との任意団体で作成しました。
 みなさんの中には、自費出版などで本を出している人がいると思います。しかし、本を自力で出すのは大変ですね。ぼくはちくま書房、岩波書店などからも本を出しましたが、それだと「原稿を書くだけ」で印税が入ります。ぼくの場合、「収入÷執筆時間<最低賃金」だと思いますが、とにかく文章を書くだけで収入が入るので、その点は気が楽です。
 しかし、雑誌を自分の事業で作ると、全ての作業に関わらなければなりません。執筆時間の10倍くらいの時間が取られ、おまけに、雑誌なので執筆者やデザイナーに自腹で原稿料を支払い、しかも自分の原稿料は一切入りません。さらに、本を売らないと赤字になって生活に支障が出ます。
 フリーターズフリー3号は2人で出していますが、1人が50万円ほど出資しています。それで原稿料などと1000冊分の製本代を支払いました。フリーターズフリー1号と2号は出版社の人文書院に流通をお願いしましたが、実のところ、出版社→書店というルートを通すと、本の定価の3〜4割しか「フリーターズフリー」には来ません。本は、流通の中で大半が「中抜き」されてしまうのです。本屋の店頭で売るより、手売りの方が3倍ぐらい収入になります。店頭でいっはい売れる本ならそれも「あり」なんですが、フリーターズフリーは「一部では有名」だと思いますが、街の本屋さんで売れるような本では全くないので、「全部手売りとネット販売でやってもいいんじゃないか」という決断をしました。  計算しましたが、700部売れてようやくトントンです。でも、2014年末に出して、今の売り上げは60万円ちょっと! まだまだ赤字です。3号は新書2〜3冊分以上の内容があって1400円なので、たいへんお安いとは思いますが、雑誌の宿命か創刊号は売れても2号、3号はなかなか厳しいです。
 こんな負担をして、なおかつ雑誌を自分たちで出そうとしたのは、既成の出版社や企業では出せない企画は自分たちの手で出さなくては、という思いからでした。そしてそれを、社会的貢献と収益性を両立させようとする「社会的起業」という方向で行なおうとしました。フリーター当事者の起業は多くありますが、「IT企業で六本木ヒルズを目指そう」みたいなものになりがちです。それとは別に、社会的に意味のある事業を社会的起業(ソーシャルベンチャー)として試みようと思ったのです。あくまで「試み」で、特に「収益」はなかなか実現できてませんが。
 というわけで、以下、フリーターズフリー3号のお知らせです。
 2014年12月、フリーターズフリー3号を発行しました。2008年に02号を発行してから6年ぶり、そして最後の「フリーターズフリー」です。
 フリーターズフリーは、不安定就労や若年労働問題について当事者から声を上げるということを目的に、有限責任事業組合「フリーターズフリー」として編集発行しました。
 2007年の創刊号は「生を切り崩さない仕事を考える」、2号は非正規雇用と貧困の原点としての「女性の貧困」がテーマです。
 3号のテーマは「反貧困運動と自立支援」です。
 反貧困運動は2007年から全国で広がりましたが、現在、それは明らかに以前のような明確な方向を示せなくなっています。
 そして、この10年、様々な現場で「自立支援」という言葉が流行し、完全に定着していきました。障がい者や野宿の現場では、かつて「自立」の概念や「自立支援法」をめぐって激しい論争が繰り広げられ様々な問題が浮き彫りにされましたが、現在、それが「なかったこと」であるかのように、「自立支援」という言葉が普通に使われています。この「反貧困運動」と「自立支援」の意味をあらためて根底から問い直してみよう、というのが、この3号のテーマとなっています。
 詳しくはこちらをどうぞ! Freeter's Free Memorandum


■生田武志さんって、どんな人?

ikuta
1964年6月生まれ。同志社大学在学中から釜ヶ崎の日雇労働者・野宿者支援活動に関わる。2000年、「つぎ合わせの器は、ナイフで切られた果物となりえるか?」で群像新人文学賞評論部門優秀賞。2001年から各地の小、中、高 校などで「野宿問題の授業」を行なう。野宿者ネットワーク代表。社団法人「ホームレス問題の授業づくり全国ネット」代表理事。「フリーターズフリー」編集発行人。

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