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2016年4月号 なかにしみほさんより、おてがみが届きました

Web女流詩人の会のみなさま

大変ご無沙汰しております。
私は、ここ数年、「アジア」「女性」「表現」をキーワードに個人研究をすすめています。その過程で、1986年に出版された雑誌『アジアと女性解放』に「特集:アジアの女たちの詩(うた)」があることを知りました。それを知った時、アジアの一部である日本を拠点とする“女流詩人”の皆さまに、内容を紹介したいと思いました。
少し長い文章になってしまいましたが、以下にその紹介と私の考えを綴りました。お時間がある時に読んでいただけましたら幸いです。

『アジアと女性解放』は「アジアの女たちの会」が1977年の創刊準備号から1992年のNo.21までの15年間にわたって発行した日本の女性運動雑誌です。この雑誌は会員制で、発行の目的を「女性差別・民族抑圧の解放をめざして!」としています。売春観光や日本企業によるアジアの労働者搾取、環境問題など、日本とそれ以外のアジア諸国間に起こっている“国際”問題を女性の視点から紹介し、草の根の運動を呼び掛ける雑誌となっています。そのNo.17(1986年3月発行)は「特集:アジアの女たちの詩(うた)」です。そこには、韓国、フィリピン、台湾、ベトナム、タイ、シンガポール、マレーシア、インドネシア、ネパール、インド、パキスタン、スリランカ、日本の“女たちの詩”が解説付きで紹介されています。何よりまずアジア諸国との広いネットワークに驚きました。

ところで、そもそも「アジア」とは、なんなのでしょうか?
インターネットには以下のようにありました。

「アジア(亜細亜、Asia)は、アッシリア語で東を意味する「アス」に語源をもつ(中略)現在ではユーラシア大陸のヨーロッパ以外の地域、つまり、アジア大陸(島嶼・海域を含む)であり、六大州の一つ。ユーラシア大陸の面積の約80%をアジアが占め、人口は世界最多で世界人口の約60%がアジアに住んでいる。(中略)アジアとヨーロッパの境界は、地理上の境界とヨーロッパ中心主義的な観点から見た人為的な境界が入り交じっている。(後略)」(wikipediaより)

アジアの語源は、東を意味するとのことですが、極東と呼ばれる日本側から見るとアジアは「西」に広がる国々です。身体的に黄色人種で、目が細く、髪が黒いといった“アジア人特有“の共通項があるように思えますが、南アジア、東南アジアの人々の姿を考えると、実際には肌や髪の色、目の形などの容姿は多様です。また宗教や歴史、文化背景もそれぞれに異なりかつ交流の重なりがあります。被植民地経験からくる欧米の影響も少なくないでしょう。そう考えると、「アジア」とは何なのか、実のところ、よくわかりません。
その、実のところはよくわからない「アジア」という名のもとに、その「女の詩」を日本語で紹介することに、この雑誌の特集は、どのような思いを持っていたのでしょうか。

雑誌は34ページ+表紙裏、裏表紙裏の合計36ページ。その大半の30ページが「特集:アジアの女たちの詩」です。特集の冒頭にあたる表紙裏にはこうあります。

「アジアの女たちが、歌っています。語っています。叫んでいます。」

この特集では「詩」は、「歌」であり、「語り」であり、「叫び」だとしているのです。紹介されているのは13か国、34作品。詩のタイトルを掲載順に紹介すると、ネパール「囚われの女たち」、フィリピン「祖国の女たちの解放に命を捧げたローリー」「基地売春婦のつぶやき」「出稼ぎの女」「ハリナ」「わが息子の鳩」「公園が生まれる」、韓国「お母さん-労働者の母へ」「労働者の生活」「昼休みの春」、台湾「笠を編む」「外資工場の女子労働者のうた」、スリランカ「女の創造主は誰」「新しい女」、インド「いざゆかん、女たちのもとへ-そこに団結が始まる」「読み書きできない女の哀歌」「Rapeされた女-三年のちの話」「二人の女」、パキスタン「自由に向かって」「声なき声」、ベトナム「ベトナムの姉妹に捧ぐ」「クオック・フォンを偲ぶ(T・A夫人に捧ぐ)」「叔母さんと女友達」、インドネシア「スンおばさんスンおばさん可愛いおばさん」「基本的人権」「女性解放」、タイ「タイの二人の女性の身上話」、マレーシア「農村の女」、シンガポール「性的ないやがらせで職場を去った-三人の女性の体験談」、日本「文字を知らないで・・・」「黒い指あとのうた」「光州-そして一年」「コンピューター」「旗」。
その半分の17作品に作者の名前がなく、また11作品の出典が明記されていません。編集後記によると、同雑誌会員でジャーナリストの松井やよりが「アジアの女たちの詩集をつくろう」と提案し、翻訳は同会員13人が手分けしたとあります。誤訳も少なくなく、編集に苦労があったようです。そして解説は詩や詩人についてではなく各国の政治・経済・女性の人権のお国事情が書かれています。つまり詩そのものではなく、詩を介して各国のお国事情を知ってもらおうという意図があるようにも思えます。

そのような意図は、読者にどう働くのでしょうか。私なりに、少し考えてみました。
 まず、同誌P.5に掲載されているフィリピンの詩を読んでください。

「わが息子の鳩」        ミラ・アギラ

私のいる荒れた獄の中で、
生まれ 育ったつがいの鳩を
息子にやった。

鳩は羽を縛られていた。
「新しい駕(かご)になれるまで
そのままにしておくのだよ」

息子は
私の考えを嫌い
私に会いに来てもすぐに帰ってしまう。

そう。
おそらく私は“君主”
息子は鳩のテープをとり
自由にしてやった。

あなた方は私が怒り悲しんだと
思うでしょうか
そうではありません
駕の鳩が広く、青い空に飛翔していく理由も
誰がそれを望むのか
皆な同じ気持ちなのです

この詩には出典が明記されておらず、ミラさんが、どのような女性で、いつごろに書いたものかわかりません。ただし、この詩の掲載されているページに付記として「86年2月25日、マルコスはアメリカに亡命。20年にわたるマルコス独裁体制は崩壊し、アキノ大統領が誕生している」とあります。この冊子の出版は1968年3月ですから、その前月の出来事です。そのような時代背景を持って読むと、鳩は自由の象徴であり、テープをとって自由にした息子は、新しい時代への扉をあけた若者たちの比喩したようにも思えてきます。しかし母と息子に表れている関係性はなんだろう?政治的な背景と関係なく、ある家族関係の描写として、この詩を読むこともできます。

この冊子が発行された1986年という年について少し述べておきましょう。前述のとおり、
フィリピンでは1986年2月25日 に100万人の市民参デモを経て、フィリピンでマルコス独裁政権に代わり、アキノ大統領が就任するというエドサ革命、別名ピープルパワー革命がおこります。ちなみにアキノ大統領は女性です。同年4月26日にはウクライナのチェルノブイリ原子力発電所で大規模場爆発事故がおきます。同年9月6日 には、日本の主要政党ではじめての女性党首として日本社会党委員長に土井たか子が就任します。政治において女性が活躍の場を広げる時と同じくして、現在につづく原子力発電所の問題が、都会ではなく地方で起こった、それが1986年です。

 もう一篇、P.24-25に掲載されている地方の女性に目を向けた、散文詩の一部をここに紹介します。マレーシアの詩です。

「農村のおんな」

(前略)

二人の女の家は大きいが荒れている。家具というものは何もないーあるのは唯一、客が来て泊っていくときのために、きちょうめんに掃除された床の上に敷くゴザだけー
「夜は寒いのです」とトク・テが震えながら屋根の穴を指してみせる。
トク・テには全く肉がついていない。そのかぼそい骨格は35kgもないだろう。膝は関節炎で痛むという。彼女の顔はやさしさとあきらめの混じった表情をつくっている。
ロキアにはあきらめなどというものはない。見知らぬ人を前にして、始めのうちははにかんでいたが、自分の話をしたときには戦う意志が閃いていた。三十歳にしてなお彼女は魅力的である。

体重が書かれていることもあり、この詩を読むと痩せて疲れた女性をとてもリアルにイメージすることができます。その痩せた身体の上に「やさしさとあきらめの混じった表情」をもイメージします。そして、もう一人の女性の魅力、ここには書かれていないのに肌の艶をも想像してしまいます。

私の場合、ここにある詩を読むことで得られるのはイメージです。そのイメージは、政治や時代につながると同時に、一人一人の女性の身体につながるものです。
 アジアはよくわからないと、いいました。しかし、この詩を読むことで、よくわからないアジアの政治や時代や、一人一人の女性の身体をイメージします。つまり、この「特集:アジアの女たちの詩」は、「アジア」の「女たち」を、日本語を母語とする読者にイメージさせたいという思いがあるのだろうと思います。国一つ一つの説明がありますが、各国ごとにイメージするのではなく、人々のひとつのつながりとしての「アジアの女たち」と、その一人一人の身体イメージが立ち上がる。そのための「詩」であり、ここでは、それを「歌」や「語り」や「叫び」とも言いかえることができると、読者の私は考察します。

 詩が本業の女流詩人のみなさまは、この「特集:アジアの女たちの詩」を、どのように読まれるのでしょうか。また「アジアの女たちの詩」という括りを、どのように感じられるのでしょうか。機会がありましたら、感想や意見をいただければと思います。
また、何か、お伝えしたくなるような資料の発見や、考えることが、ありましたらお手紙させていただきます。

■なかにしみほさんって、どんな人?
nakanishi

大阪経済大学非常勤講師。日本アートマネジメント学会関西部会幹事。主な共著に、『大阪力事典』創元社2004年、『アートイニシアティブ リレーする構造』BankART1927,2009年、『日本学叢書4アジアの女性身体はいかに描かれたか 視覚表象と戦争の記憶』青弓社2013年、『アートミーツケア叢書1 病院のアート−医療現場の再生と未来』生活書院2014年。趣味はダルマ集めと旅行。詩人の夫と二人暮らし。昨年末に介護初任者研修を受講し修了しました。
【写真】『アジアと女性解放No.17 特集:アジアの女たちの詩(うた)』表紙

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2015年1月号 今滝憲雄さんより、おてがみが届きました

 はじめまして。大阪の堺に住む、今滝憲雄と申します。
兵庫県のある女子大学の図書館で今、この手紙を書きはじめています。
両隣には自習中の学生さんが、静かにペンを走らせて勉強しています。
 僕は今、大学の非常勤講師をしています。担当するのは、教員養成の授業です.一回生を対象とした教育総論や、人権教育関連の講義を受け持っています。といっても、週に三日のみの出講で、その他、週末には研究会や読書会も入りますが、とにかく自由な身分で日々、過ごしています。
 僕がこのような手紙を記すきっかけについて、少し触れさせてもらいます.昨年六月、受講生対象の街歩きを企画するため、大阪西成の釜ヶ崎をたずねました.そこで偶然、上田假奈代さんたち、アートNPOココルームのスタッフさんたちと出会った事がきっかけです。その後、ココルーム主催の釜ヶ崎芸術大学に出席させてもらいながら、上田さんが毎月自主運営で開いている「詩の学校」にも顔出しするようになりました。そんな中、お声掛けいただいた事で、この手紙を書かせてもらう事になりました。
 ちなみに上田さんと出会うまで、詩とは無縁の世界に生きてきました(そうは見えませんが、いわゆる体育会系出身で中高大と野球部に所属し、十年前まで地域の草野球も続けました)。ですから、「詩の学校」で共同作業により形づくられる詩に、毎回大きな喜びと充実感を覚えています.そしてその事が調子乗りの自身の変な自信にもなり、この間、個人的にいくつか詩を作る機会がありました。
 例えば、昨年十一月、淀の京都競馬場で開催されたマイルチャンピオンシップ。お気に入りの競走馬を見に行った際につくった長編詩(ちなみにその馬は十八頭の出走馬中、十八着でその悲哀を綴りました)。また昨年十二月、母の一周忌に書き記した詩(今も自宅の冷蔵庫にその詩をはりつけています)。またある女性アクセサリー作家の創作活動を見せてもらった後、その様子を綴った詩(彼女には思いも寄らぬプレゼントだったようで、超びっくりされてしまいました)。  これまで想像も出来なかった自分の生活世界、ライフステージに詩という素敵な芸術が、ある位置を占めるようになりました。そんな僕にとって、忘れられない出来事が、この前の「詩の授業」でありました。
 それは上田假奈代さんとペアになって、ある思い出の地名について聴き取り合い、それを形にした詩の創作においてです。もう十五年程前の事なのですが、ハンセン病療養所がある屋我地島を訪れるに際して、沖縄出身で僕の授業を受けていた、ある女子学生さん(僕を励ましてくれていた)に会いに行った話を、上田さんに聴いてもらった時の事です。実はその行為に対して僕は、ずっとある種のよこしま感、大げさですが、罪の意識のようなものを抱いてきました。が、出来上がった上田さんによる「聴き取り」詩の朗読を側で聞かせてもらい、とても心が晴れました。つまり、自分の罪意識を無化してもらえたように思えたのです(また静かな島の月夜の情景も、心に想起されました)。詳細は論じられませんが、とにかく詩には、その人が抱えて来た負の人生体験を浄化して、美的な出来事へと転換してくれる力があるんだなあとその時、感じたのです.
 他者の語り(表現)を誠実に聴き、それを受容して再構成しながら、自己表現する「再現」のプロセスに、自他の個性が普遍的な価値の実現として自ずと輝き出る事、そんな不思議な力が詩作には秘められているんだ、と気づかされました。
 芸術全般の基礎的な事柄かも知れませんが、創作の場においてこそ、日常の中に埋もれかけている豊かな実在(価値)が浮かび上がるという事実、そんな詩作との出遇いで、僕の世界は広がりと深まりを見せています。そういった素敵な体験を、より多くの人々に導いていただけますよう、みなさまには心より希望し願っています。


■今滝憲雄さんって、どんな人?
takitaki
1969年生。大阪府立大学大学院修了後、現在まで大学非常勤講師
直らない面倒くさがりの性格につきあい続ける日々を過ごしています。


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