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2013年6月号 杉本恭子さんより、おてがみが届きました

みなさまへ



「今度、ウェブで手紙を書くことになったよ」と言うと、となりにいた彼は「紙に書かないのに手紙と呼ぶのはおかしい」と異議をとなえました。そこで、「今日、二通の手紙を出したよ」と返事をしたら、彼はそれ以上何も言わないでいつもの静寂に帰っていきました。



そう、その日は二通の手紙を出したのです。



一通は、八重桜のトンネルを見上げながら娘を抱いて歩いた友だちがくれたはがきへの返事。わたしは、そのはがきをハナミズキが咲きはじめた坂道を下りながら読みました。手のひらの上に、ひかりに包まれる家族の風景が立ちあがってくるのを感じながら。



もう一通は、もうこの世にいない先生に宛てた手紙でした。大学時代に出会って、たくさんのことを教わった先生。年賀状の返事が来ないので心配していたのです。すると、桜が満開のころに奥さまから「先生はお返事を書けなくなってしまいました」と代筆のようなはがきが届いたのでした。



年賀状の返事がこないことに胸騒ぎがしたのに、どうして会いにいかなかったんだろう?机に置いたはがきを前に自責の念にじりじりするばかり。奥さまへの返事も書けず、葉桜の季節を迎えていました。



「先生に書くつもりで、奥さまへの返事を書こう」



ふっとそんな気持ちが動いたのは、先の友だちへの返事を書いているときでした。紙に書く手紙は手に触れられるけれど、手ではことばに触れられません。ことばは、こころで触れるもの。こころは、かたちを持たないもの。ことばでは、この世でのかたちを失った先生に触れられるような気がしたのです。



ふたつの手紙の最後は、どちらも「会いたい」という気持ちを綴りました。たぶん、手紙を書くことは「あなたに会いたい」ということを、いろんなことばで色をつけたり、音を鳴らしたり、においやぬくもりを添えて伝えるいとなみではないでしょうか。



いつか、あなたに会いたいです。



■杉本恭子さんって、どんな人?
sugisugi

京都在住のフリーライター。「新しい動きを生む場」を作る人へのインタビューを多数手がける。greenz.jpライター、ネット寺院「彼岸寺」にてお坊さんインタビュー「坊主めくり」を連載。

http://writin-room.tumblr.com/
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