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2012年3月号 陸奥賢(むつさとし)さんより、おてがみが届きました

 蘭の会のみなさま、はじめまして。ぼくは陸奥賢(むつさとし)と申します。昭和53年(1978)2月12日に大阪の住吉で生まれて、堺や大阪市内各地を転々としましたが、基本的にはずっと33年間、大阪で暮らしています。100%生粋の浪花男です。水瓶座のA型で、星占いなどではよく「自由気まま」「個性的」「無節操」「クール」「誤解されやすい」といったようなことが記述されるんですが、さて、どうでしょうか。株式会社まちらぼという会社を経営してまして、それは船場の順慶町にあります。そう。ぼくは憧れの「船場のだんさん」なんですが、哀しいかな、旦那だけではなく丁稚も手代も番頭もぼく一人で兼任してます。要するに大阪名物の零細企業のオーナーです。自分の会社が船場(最寄り駅は心斎橋です)にあり、家が堺(最寄り駅は新金岡駅です)にあり、そこを往復する日日なのですが、そのほぼ中間地点にココルームがあるので、よく出没しています。ある日、コーヒーでも飲もうとココルームに入ったら詩人のうえだかなよさんから「むつさん、おてがみを書きませんか?」と唐突にお声掛けを頂き、よくわからないままに「ええでっせ」なんて軽く返事をしてしまい、こうして蘭の会のみなさまに「おてがみ」を書く次第となりました。すぐに安請け合いするといいますか、女性からのお願いやお誘いは断れない性分です。

 さて、今日はぼくの仕事についてご紹介したいと思います。たまに「どんなお仕事をしているんですか?」と質問される機会があると「逍遥するツーリズム・プロデューサーです」なんて答えたりしていますが、そういってもなんのことだか、よくわからない方が大半で、そこで色々と言葉を足していくのですが、結局、最終的には「まち歩きをやってる人」という一文に帰結します。「まち歩き」というのは業界用語では「コミュニティ・ツーリズム」と呼ばれることもあるのですが、読んで字の如く、自分の所属しているコミュニティ(コミュニティというと家族であったり、会社であったり、詩人の会といった場合もありますが、この場合は、もっとフィールド、場所的なもの・・・すなわち地域、集落、村、都市、まちなどを意味しています)をツーリズム(観光)しようというものです。皆さんが「観光」というと大体「名所旧跡を巡って温泉に入って老舗旅館でカニ食べ放題パックツアー」なんてのをイメージしがちなのですが、これは大衆向けのマス・ツーリズムといいまして、コミュニティ・ツーリズムは、そうしたマス・ツーリズムへのアンチテーゼとして出てきた動きです。

 といいますのも、マス・ツーリズムは結局のところ、大手資本が地方を「観光商品化」して商業的に消費しているだけではないか?という痛烈な非難がありまして・・・例えば沖縄のホテルは大多数が東京資本で、現地では従業員の雇用ぐらいは発生していますが、宿泊料、手配料などはすべて東京に集約するシステムです。沖縄名物のお土産屋さんまで、東京のツアー会社と契約している店舗で購入させられ、その店舗の経営オーナーがこれまた東京資本であったり、というようなことは往々にしてあります・・・「これではわがまちが大手資本に食い物にされているだけだ。それでいいのか?そうではないだろう。もっと本当のわがまちを見てほしい。そのためには自分たち独自でやればいいではないか」というような動きがコミュニティ・ツーリズムです。ガイドさんも自分たちが案内する。コースも自分たちで考える。サービスも自分たちで提供する。マップも自分たちで作る。なにもかもまちの人の手作り。「大手資本に綺麗にパッケージされた観光商品ではなく、自分たちが何気なく暮らしている、日常の普段のまちを歩いて体験・体感してほしい」というのがコミュニティ・ツーリズムで、ぼくはそれを、愛するわがまち・大阪で展開しています。そのまち歩きにはプロジェクト名がありまして「大阪あそ歩」といいます。じつはいまや日本全国各地で「まち・地域おこし」「まち・ひとづくり」の手法として、コミュニティ・ツーリズムの動きが盛んなのですが、この大阪あそ歩は大阪市内だけで150コースのまち歩き、200名以上のまち歩きガイドさん(主婦や会社社長やNPO代表や商店街のおっちゃんや元新聞記者や僧職やコンサルやアーティストや・・・と色んなまちの方が活動しています。プロのガイドはいません。みなさん、まちに住んでいる、まちを愛している庶民です)を有していて、いまや「日本最大のまち歩きプロジェクト」だったりします。ホームページもありますので、もしよろしければご覧ください。http://www.osaka-asobo.jp/

 それで、大阪あそ歩に参加してもらうとよくわかるのですが、大阪のまちというのは、非常に面白いまちでして、そのまちの歴史、文化、色、雰囲気、性格には、大阪人気質というのが色濃く作用しています。どういうことか?というと、例えば江戸時代の東京=江戸は100万人都市でしたが、そのうちの半分の50万人は武士でした。対して江戸時代の大阪=大坂は人口は30万人〜40万人ほどですが、そのうち武士は1500人〜2000人程度といわれてます。人口比率でいえば、0.5パーセント。1パーセントにも満たない数の武士しか大坂にはいなかった。大坂人の中には「一生、武士の姿を見ずに死んだものがいた」というぐらいでして、まちの運営は庶民、町衆の自治でやってました。要するに「お上」「権力」「権威」というものが大坂にはなかった。日本全国のほとんどのまちは城下町で、そこには藩主、城主がいる武士のまちですから、こうした大坂のような「庶民のまち」「町衆のまち」というのは非常に珍しいわけです。そして、武士というのは、いまでいえば官僚のような存在ですから、官僚が作った江戸のまち(官都)と、庶民、町衆が自由気ままに作った大坂のまち(民都)のどちらが面白いか?といえば、これは歴然と大坂の方がユニークで面白いわけです。自由闊達で、テキトーで、破れかぶれで、いい加減で、酔狂で、トマソンで、カオスで、道楽で、趣味で、懐が深くて、お金が掛かっていて、アートで、遊び心が随所に展開されているのが大坂のまちで、こうしたまちの遺伝子、情景、風土が現在にも脈々と息づいています。大阪が産んだ国民的大作家・歴史作家の司馬遼太郎は、そんな大阪のことを「日本で、もっとも市民的な都市」と呼びました。いろんなおもろいまちがあって、それを楽しむことが出来る。百花繚乱、万華鏡のような大阪のまち。その多様性の証明が、大阪あそ歩の「まち歩き150コース」というわけです。

 そうそう。大阪あそ歩150コースの中には、ココルームの活動拠点となっている太子・山王・飛田界隈のまち歩きというのもあります。ガイドはもちろんココルームの皆さんで、詩人のうえだかなよさん、着物姿が可愛いスタッフのゆうこちゃん、「逃げない人類学者」のオカモトさんなどがガイドしてくれるのですが、これがまた文句なしに面白い。素晴らしい。現地に住んでいる人、まちを愛している方が案内してくれる、まち歩きというのは、まちの実像を捉えていて、虚飾に満ちた観光ガイドブックや旅行雑誌に載っているような薄っぺらい情報などは一切ありません。とても生々しく、真に迫り、ドラマチックで、リアルです。とくに太子・山王・飛田というまちは、そういう人間ドラマ、物語の宝庫のようなまちですから。大阪あそ歩でもまち歩きをやっていますが、ココルーム主催でも毎月、まち歩きをやっています。機会があれば、これはぜひ参加してください。

 長々と書いてきましたが、締め切りがあるそうなので、このへんで打ち切りたいと思います(笑)とりとめのないことを書いてきましたが、そういうわけで、ぼくは「まち歩きをやってる人」として、日夜、大阪のまちを逍遥してます。ほんまに、ええまちです。大阪。大阪を歩けば、ええ詩ができる思いますよ。家隆も西行も芭蕉も、日本の偉大な詩人たちが、大坂きてます。みなさん、いっぺん遊びにきてください。

■陸奥賢(むつさとし)さんって、どんな人?

むつさとし
1978年、大阪生まれ。中卒。株式会社まちらぼ代表取締役。大阪あそ歩(大阪コミュニティ・ツーリズム推進連絡協議会)アシスタント・プロデューサー。AllAbout「大阪」ガイド担当。地域活性化ビジネスプラン「SAKAI賞」受賞。小説『アカリとスワ』にて第17回「日本動物児童文学賞」受賞。

※公式ブログ:むつさとしのブログ(http://mutsu-satoshi.com/



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