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2012年12月号 小倉ヒラクさんより、おてがみが届きました

蘭の会さま
はじめまして、東京でデザイン業を営んでいる小倉ヒラクともうします。

「詩」というと、かつて20代はじめの頃に絵の修行をしたフランスを思い出します。



当時、フランス語がまったく喋れない僕に、知り合いがジャック・プレヴェールという詩人の詩集をオススメしてくれました。ジャック・プレヴェールの詩は、とても簡単な単語を、とてもシンプルに使って、かつダブル・ミーニングや隠喩に富んでいるアクロバティックなものが多く、僕はその詩集"paroles"(たしかfolioの文庫本だったな)を、夢中で何度も読み返した記憶があります。

いま思えば、それは理想的な言葉の学び方でした。

何が理想的なのか。それは、全ての言語の本質であり出発点であるものが「詩」である、ということなのです。

言葉が言葉として生まれた瞬間は、それは「記号」になる前の、未分化で、象徴的で、音楽的な、一言ではくくれない「多義的」なものだったはずです。

それが、言葉が定着し、体系化されていくと、「AはAである」「BはAではない」という風に、概念が切り分けられ、整列させられ、ある固定化された社会的な意味を付与されます(会社の会議とかは、そういう「記号」のやりとりによって成り立っていますよね)。

それはそれで結構なことで、そういう固定化されたルールがあるからこそ、契約も成立し、裁判も成立し、通販で注文したものが間違いなく届く訳なのですが。



「詩」は、僕たちを言葉の始源に戻してくれる優れた装置です。「ことば」は「こえ」であり「からだ」である。

そこには、ことばを使う主体である自分の向こう側にいる「神さま的なもの」とアクセスする装置であり、「記号」には還元できない「その時、その瞬間」のこころのふるえを記録する装置なのでした。

ジャック・プレヴェールの詩のいくつかは、いまでも念仏のように空で暗唱することができます。それを思い浮かべるときに僕のなかでイメージするものは、その「響き」の磨き抜かれた美しさです。それはジャック・プレヴェールの才能の輝きであると同時に、「フランス語」という言葉の本質です。

「ことば」の本質は「こえ」である。そこには祈りがあり、からだがある。

詩人は、そのための触媒、ことばは「記号でない」ということを常に主張している大事な存在だなと思うのでした。

■小倉ヒラクさんって、どんな人?


小倉ヒラク:おぐらひらく。合同会社++(たすたす)共同代表社員。地と人をつなぐ「地営業」を提唱。「デザイナーのフリをした学者」を自称し、各地でデザインプロジェクトやワークショップを行なう。
BLOG:http://hrkwords.exblog.jp/
WEB:http://tassetasse.jp/
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2012年10月号 多田衣里さんより、おてがみが届きました

はじめまして。私は大阪在住の女子です。つい先日三十歳を迎えました。
この歳になりようやく最近私の故郷と呼べる場所ができました。
私はこれまで、故郷と言える場所を持っていませんでした。(実際にはあったかもしれませんが、あまり故郷と感じていませんでした。)大阪生まれ大阪育ち、ですが思春期の半分は西宮で育ちました。
生まれ住んだところは大阪湾に浮かぶ埋め立て地。何もかも人工的に創られた、マンションが並ぶ新興住宅地でした。
緑は多くて川もあり(全部人工!)、公園もたくさんありました。安全な場所だったと思います。その後遺症か、私も妹も、方角を気にするという感覚がありません。社会に出て最近気にするようになりましたが。
全てがつくりものということは、地域のお祭りや行事も全部つくられています。今思えば不思議な町ですね!!いっちょ前に夏祭りや御神輿、花火大会なんかあり、正月には餅つきもありました。子供の頃よく夏になるとお囃子の練習に行った覚えがあります。今大阪のいろんなお祭りを見に行くようになり、歴史あるお祭りとの違いを大人になり感じています。でもそんな新しい町でも、いろんな行事を体験させてもらったのは良かったなあと思ってます。
このような不思議なまちだったためか、住んでいた頃から、故郷という感じはあまりなかったです。

その後、中学3年の時、西宮へ引っ越しました。西宮も良い所でしたが、大阪から来た思春期の私にはもの足りなかったのと、やはり小さいころからいないため土地勘があまりなく、ここもまた故郷と呼べるのか微妙な場所となりました。

いきなり数年前、両親が田舎暮らしをするため日本海付近のど田舎に引っ越しました。都会育ちの我が人生にいきなり田舎ができました!!
Iターンながらも、実家へ帰ると畑で採れた野菜や米など食料自給率120%、きれいな風景と心からの豊かさを満喫できます。
半年間私も実家で暮らしていましたが、田舎の人間関係はつながりが強く(人数が少ないから?)、私の中では「田舎」=「故郷」に少し近いものとなりました。

現在私は大阪で一人暮らしていますが、この春から大阪のまち歩きをする会社で働いています。
この大阪が、最近私の故郷だと思える場所になってきています。仕事で大阪のいろんな場所に行くようになりました。生まれ育った場所だけど、全然どこも行ったことがなかった!ミナミと梅田、京橋、天満、大阪城ぐらいかな〜。そんな人結構多いと思うんだけど。
大阪っておもろいまち!商売ゾーンあり、ごちゃごちゃゾーン、下町ゾーン、ディープゾーンに、ピンクゾーンもあり?!人が生活するとは、町とはこういうものなんだなあと日々勉強です。
生まれた町を知ることは嬉しいことやなあと思いました。

故郷と思う場所ってどういうことなんやろう?
育って、よく知ってる所のことでしょうか?でも素敵な思い出がよりたくさんあった場所が故郷と感じたりするんかな。よく引っ越しをしていた人たちはどうなのでしょう。
書いていて、その感覚について面白いなあと思いました。私は最近やっと見つかったように感じるので。


■多田衣里さんって、どんな人?

tadaeri
大阪生まれ。「今更聞けない勉強会」、「ファイヤー!粘土団子爆弾!!」主催。パーマカルチャーや農業について学び、未来の暮らしに関心ありの自由人。
現在は大阪あそ歩で少し落ち着いている。


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2011年9月号 冠野 文(かんのふみ)さんより、おてがみが届きました

おてがみ

私が今もしょっちゅう買って使うのは50円切手で、出す手紙はたいてい絵ハガキです(ヨソの国へ出すときは、ハガキは世界共通70円)。もっと若いころは、ずいぶん長い便りも書き、枚数が多くて安い便箋をときには10枚も使っていた。いったいあの頃は何をそんなに書いていたのだろう。長い便りの一方で、毎日のように会う人に毎日のようにハガキを投函したりもしていた。書いたものをポストに出しにゆき、それが郵便屋さんの手を介して届く。届いた先では、時をおいてそれを読む。私のところに届く郵便も、そうやって時をおいて読んでいるのだと、ふとしたときに思う。

私はかなりハガキを出しますが、電子メールも使います。キーボードでぱこぱこと書いたものを、自分の手で送信ボタンを押して送る。早いときには1分後くらいに返事が届きさえする。その早さ、時をおく間もないやりとりが、切手を貼って出しにいく郵便との違いだろうかと思う。

「文」という、手紙や文字の意味ももつ自分の名を、「手紙」とあらためて言われると、ちょっと考えます。小さかった頃は、電柱に自分の名をみつけ(住んでいたすぐ近くに学校があったので)、地図を習えば「文」とは学校の意味であり、単位を習えば、それはお金や長さをあらわしたものであり、漢字の成り立ちを知れば、それは紋様からきたのだという。

詩と文のちがいは、今もあまりよくわかりません。詩集というのは、下の方が白っぽい本だと長いこと思っていた。短くて、さっさと読めるとも思っていた。あるとき散文詩というのを知って、そっちはお経のようにも見えた。声に出して読むとおもしろいと知り、ことばを声にのせると気もちがいいことも知り、ときどき、気に入った詩を声をあげて読んだりする。

詩は、声からくるのか、それとも、文字からうまれるのか、どんなふうに詩はたちあがってくるのだろうと興味があります。もしかすると詩は、太鼓のようであったり、楔形文字のようであったりするのか。それは、どんな場で、どんな時に、どんなふうに。

                                                        2011年6月 冠野 文

■冠野 文(かんのふみ)さんってどんな人?

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冠野 文(かんのふみ)。1969年、千里ニュータウンうまれ。ほぼずっと大阪在住(途中3年だけ広島在住)。
本を読むのが好きで、20年くらい前から「ブックマーク」という本ネタのミニコミ誌をつくっているのと、この10年ほどは『We』誌で「乱読大魔王日記」、『ヒューマンライツ』誌で「頭のフタを開けたりしめたり」という、いずれも本ネタの原稿を書いている。
勤め先を転々とし(これまで同じ職場には最長3年しかいたことがなく)、いまは『We』誌を出している零細会社・フェミックスの社員で、在宅勤務。校正仕事が得意。

ブログ 乱読大魔王の『We』周辺記事
http://we23randoku.blog77.fc2.com/

フェミックス
http://www.femix.co.jp/
(『We』の注文ができます)
 
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