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2003年2月号 ベアトリーヌ・ド・ピンク(ピンクベア長谷川)さんより、おてがみが届きました

親愛なるジャンジ

 今日はいつも明るい笑顔しか見せないあなたの女という生き方をかいま見せていただきました。

 アメリカという傲慢な大国がイスラムの小国に言いがかりのような戦争を仕掛けようとしている2003年2月7日、午後8時。隅田川左岸の小さな劇場で幕を開けたあなたのステージはまさしく空間詩でございました。子供を堕ろした一人の女という生き方のほうにどれほどの大儀があるかなんて、親子二代の戦争屋のかの国の統領にはわかるはずもございませんわね。

 私が知っているあなたは子供の頃からスカートが嫌いで女装をするようになって初めてスカートをはいた女の子だということくらいかしら。その女の子の「ジャンジの体が今も泣き続け、子供は今も生き続けている」と叫ぶラジオはほかのどんなニュースよりもリアルでしたわ。

 それにしても生まれてこなかった子供を想い喪服に身を包み、凛として立つあなたの美しかったこと。(そんな時もあなたは泣き叫ぶ体を引きずっていたのですね)

 そして、シュプレヒコールの中、「世情」に背を向けひたすら疾走するあなたに私は自分を重ねてしまいましたわ。男であれ、女であれ勇ましい怒号も無責任な野次も結局は過去に向かって流れていくだけ。そんな世間様の流れのなかを倒れそうになりながら走っていたら、同じほうを目指してよろけながら走るあなたを見つけた気がいたしましたの。とても嬉しうございました。

 あなたの目はいつも未来を見つめていらっしゃったのね。生まれてこなかったあなたの赤ちゃんとともに光り輝く日を見つめてあなたは走っていらっしゃったのね。

 諸説を歪めてまで己の都合に合わせた純潔を唱える戦争屋。そんな異なる者たちへの思いやりなどかけらもない男に尻尾を振る男が取り仕切るこの国で、女という生き方を貫くのはまったく骨が折れることでございます。でも、今日、疾走するあなたは見事に輝いていらっしゃいました。そんなあなたを拝見して私も走り続ける勇気をいただきましたの。

 これからも一緒に走り続けてくださいまし。それでも未来は来ますもの。

あなたの友人ベアリーヌ・ド・ピンクより

(ジャンジ・荒木順「リサイタル」に寄せて/ピンクベア長谷川)


+ピンクベアさん情報

ベアリーヌ・ド・ピンク/ピンクベア長谷川
本名 長谷川博史(はせがわひろし)。
1952年生。
変態野郎系おばさんゲイのエイズ アクティビスト。
17歳でクラスメートに自らのセクシュアリティを指摘され、
大学進 学を機に上京。19歳で男性初体験を果たす。
その後全国のゲイバー、ゲイサウナ、SM クラブなど多方面で活動。1992年自らのHIV感染を知る。
「性病やみのオカマ」を自称し
ラブイベント「ピンクベア・カフェ」(1997年〜000年)で
ドラァグクィーンとして『女装詩』なる朗読パフォーマンスを始める。
テーマはセックス、性、 HIV/AIDSに限定。


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